山野草のお庭
早春のセツブンソウから初夏のヤマアジサイまで
暦の雑節・節分のとおりにセツブンソウが咲き始めました。ここは栃木県南部に位置する下野市、住宅街の一角にある柳澤紀夫・和子さんのお住まいです。
「高山植物は以前から興味を持って育てていましたが、ここに住むまでセツブンソウを知りませんでした。このセツブンソウは30年くらい前に購入した4ポットが始まりです。その後、タネまきや自然実生でもここまでふえました。生育期に追肥、冬に落ち葉を全体に載せる程度の管理で、今では我が家に春の到来を告げる花として定着しました」
毎年1月下旬になると、落ち葉からの芽出しが気になり、毎日確認するのが日課のようだと、楽しそうにお二人は語ります。
ご夫妻が下野市に住み始めたのは30年ほど前になります。住むにあたり庭づくりで考えたのは、鉢栽培が中心だった高山植物を育てるため、それまでのノウハウを活かしたロックガーデン作りでした。セツブンソウが咲く2月上旬、高山植物はまだ冬眠中のようで最盛期にどんな花が咲くのか期待は膨らみます。
セツブンソウは「まいて3年、咲いて3年」、球根の更新が必要。植えつけ場所は午前中は陽が当たる場所なので、葉を広げたヤマドリゼンマイの下で夏は休眠している。地上部がある時期に液肥で肥培、真冬は寒さや凍結からの保護のため落ち葉を軽くのせる。2カ月後に実をつけ、鞘が黄色くなったら採種してとりまきする
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セツブンソウの花を見てから約1ヶ月後の3月上旬、雪割草が見頃になったという連絡をいただだき、天候のよい日の昼前後を狙って訪ねてみました。
園芸種でもある雪割草の元となっているオオミスミソウの自生の中心は日本海側の積雪地域です。積雪がほとんどなく、冬は乾燥した気候が続く太平洋側での鉢栽培はもちろん、庭植えにもそれなりに植栽と管理の工夫が必要と思われます。見える地表の用土はほとんど鹿沼土のようです。地下の様子を聞くと、50㎝下には水分をよく含む軽石のような構造の鳴子石(宮城県産)が敷かれているそうです。根の乾燥に弱いとも聞く雪割草を考えると合点はいきます。管理では、追肥はセツブンソウとは異なり油粕、大きく成長した株の株分け、真冬にはやや上部を寒冷紗で覆うことぐらいだそうです。
この日は雪割草の他にクリスマスローズやイチゲの仲間、ネコノメソウも咲き始めていました。
植えつけてから約20年になる雪割草。南側のソシンロウバイが雪割草の花後から枝葉を伸ばし始め、夏にはすっぽりと覆い被さる。雪割草は根が浮いてくるので、冬の間に新しい鹿沼土で根を覆ってあげる
《2〜3月の花》
地中海原産の寒咲きアヤメ。花の少ない真冬に咲く貴重な花
フクジュソウ。かつてはそれなりに大株に育っていたが、最近は衰退気味
ハルトラノオ。とても丈夫で20年ほど春先に花を咲かせてくれている
アズマイチゲは株の割に花が咲きにくく、キクザキイチゲのほうが花つきはよい
シクラメン・コーム。ロックガーデンには本種の他に秋咲き種も含めて数種が植栽される
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4月中旬、3度目になる柳澤さんのロックガーデンを訪ねます。高山植物を里で栽培すると多くがこの時期から咲き始めます。ご夫妻にはきっと待望の春の到来でしょう。高山植物のためのロックガーデンとはいえ、鉢管理を中心にしている種類もあり、植栽の中心は丈夫でふえやすい種類とのこと。この日はイワカラクサの小花が盛りで、周囲にはアンドロサーケ(ツルハナガタ)、ベロニカ・プロストラータ、ナルキサス・ブルボコディウム、ミヤマアズマギクなども咲いています。
「このロックガーデンは、大きな数本の樹木や石は業者にお願いしましたが、人の手で移動できる石や用土、その他の植物の植えつけは全部、二人だけでやりました。表面から70、80㎝掘ったところには割った瓦を入れています。若かったからできたのでしょうね。」と笑います。
一度植えつけたらロックガーデンの管理は楽と思いきや、そんなことはないようで、植栽したとはいえそのままでは花は永遠に咲いてくれません。基本的には鉢植えと同じように毎年の植え替えが必要とのことです。ただ、中には数年に1回や、全くいじる必要のないものもあり、助かるとか。それ以外の管理は、2月に行う緩効性化成肥料の散布、そして早春・初夏・秋口に普段より徹底して行う雑草とりが中心になるそうです。
《ロックガーデンと4月の花》
日当たりのよい南向きのロックガーデン。
中央奥の石の手前にセツブンソウの花がわずかに見える程度で、
景色はまだ冬の様相
約2ヶ月後、全体に緑が蘇り始めた4月
クリスマスローズ。半日陰から日陰まで適応性があり、
住まいの四方に植栽している
ピレネー山脈、ヨーロッパアルプス原産のイワカラクサ。 多年草だが、株の寿命はさほど長くないようで、
毎年こぼれダネからの苗が育ち大株になる
アンドロサーケ・サルメントーサ。毎年の植え替えが必要
40年ほど育てていたミヤマアズマギクだが、2023年の夏の暑さで枯れてしまった
ナルキサス・ブルボコディウム。球根を緩める植え替えで、花数はよりふえる
10年ほど植え替えなしでふえているベロニカ・プロストラータ
高山性キンポウゲの1種。ランナーでよくふえるので、 場合によっては間引きも必要
八重咲ヒメリュウキンカ。ヒメリュウキンカ類は丈夫で 庭に植えておけば、そのまま夏休眠をして毎年咲いてくれる
コリダリス・オフィオカルパ。ヒマラヤ東部に自生、非球根で常緑の宿根草
ヤマシャクヤク。半日陰で適度な湿気と通気性がある場所。
条件がよければこぼれダネでもふえる
夏には木陰になるロックガーデンの奥に植えた園芸種のさくらそう
この花の後、カザグルマ、クレマチス・ヴィオルナ系が咲く。
茎が太くなるとシンクイムシの被害を受けやすくなるので注意する
6月上旬、ロックガーデンや主屋まわりの半日陰を華やかにしてくれた花々は終わり、程なく梅雨を迎える時期になりました。この日訪ねると、玄関脇にはヤマアジサイの鉢が並んでいました。
「以前は夏山へ出かける趣味もあったので高山植物が栽培の中心でしたが、数年前から里のしっとりとした花もいいなと感じるようになりました。ガクアジサイよりやや早く咲き始めるヤマアジサイに惹かれています。育て始めてまだ数年ですが13種ほど集めました。やや小柄で何種も植栽できるのが楽しみになっています。」と和子さんは話します。
緑が濃くなったロックガーデンの奥を見ると青色の目立つヤマアジサイが咲いています。そして春から見てきたロックガーデンに目を移すと、この時期には珍しいシャジンの仲間とウスユキソウの仲間を見つけました。
ヤマアジサイが咲き終わる7月上旬頃から、下野市のある地域は最高気温38度、35度以上の日がひと月以上続きます。庭へ出るのは早朝と夕方以降になります。そして秋まで、庭の花は途切れることはありませんが、数種ずつ咲き繋いでいきます。
《6月の花》
左は奏音の星(かなとのほし)。愛媛県新居浜市産のヤマアジサイ。
右は九重山(くじゅうさん)。大分県に自生するヤマアジサイに、砂子斑の入ったもの
瀬戸の月(せとのつき)。高知県産のコガクウツギとヤマアジサイの自然交雑種
土佐の海(とさのうみ)。高知県産のヤマアジサイ。
日光に弱いようで葉焼けしている
アマギアマチャ。日本に古くから自生しているヤマアジサイの1品種。 ヤマアジサイの変種として扱われることもある
庭のアクセントになっているシシガシラ。30年植え替えしていない
北海道、本州(中部地方以北)に分布するキタノコギリソウ
大雪山層雲峡などに稀産するツリガネニンジン属で
モイワシャジンの変種コバコシャジン。
年によって花色は水色のこともあり変化する
意外と丈夫だが、ロックガーデンでは大きく育ちすぎるきらいがある
中国西部からチベットに分布するという四川ウスユキソウ。 根腐れに気をつけて、植え替えさえすればとても丈夫
アメリカ東部原産のクレマチス・ヴィオルナ。新枝咲きのため、伸び上がリながら花をつけるので長く花を見ることができる。冬は地上部が枯れるため短く切っておけば翌春に芽が出て花が咲く
ヨーロッパ、コーカサス、イラン原産のヒメヤツシロソウ。
株分けでよくふえる
こぼれダネでふえ長く栽培できる
エンビセンノウの近縁種カラフトエンビセンノウ。
花弁の先端に丸みがあり、花は少し大きい
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限られた庭での栽培は要注意!柳澤さんが選んだ
我が家の困ったちゃん植物15選
・地下茎を遠くに伸ばして芽を出す
・再生力が旺盛すぎる
・広がるようにふえすぎて他の植物を植えられない
・解決は、鉢管理がおすすめ?
ウツボグサ:繁殖力が強くランナーの他、こぼれダネでもふえる。狭い庭にはやや不向きかも
シャガ :公園の植栽のように根茎を四方に伸ばして広がり、他の植物を侵食する
シラン:移植しても、残り株があると数年で再生する。芽生えたら要注意
センニンソウ:蔓の成長力が旺盛で実生苗がたくさん発芽する。小さな苗でも根は深い
タツナミソウ:根を伸ばし繁殖する上、タネはあらゆるところに発芽する。しかも地下茎は他の植物の根元にまで入り込む
ドイツスズラン:環境がよくふえた場所に少しでも根茎が残っていると再生してふえる。しかも根は深い
ハマナシ:強風もなく環境がよいと高くなり、棘が鋭くせん定が大変。しかも根元からシュートが出て離れたところからも芽を出す
ヒヨドリジョウゴ:蔓の成長力が旺盛で庭木に絡まって大きくなりすぎる。タネをこぼすと発芽もよすぎる
ホウチャクソウ:繁殖力が強く根が張り、根茎が切れてきれいに取り除くには大変
ヤブミョウガ:草丈があり、地下茎で毎年ふえて広がる。限られた広さの庭には不向き
サルマ・ヘンリー:温暖地では株が大きくなり、実生はあちこちに発芽し、狭い庭には適さないかも
ジロボウエンゴサク:可憐な小さな花の割にこぼれダネでもふえ、球根は小さい割に深い
ヒメツルソバ:茎を伸ばしながら根を出してふえ広がる性質なので、主庭には植えず、通路沿いで取り除きながら維持
フッキソウ:繁殖力が強く根が張り、抜くのも大変
ホタルブクロ:長いランナーを伸ばしてどこまでもふえ広がり取り除くのが困難になる。10年過ぎても再生することがある
ヤブコウジ:丈は低く、赤い実は可憐だが太い地下茎は繁殖力旺盛
ラナンキュラス・ゴールドコイン:花はきれいだが繁殖力が強く、丈も大きくなり持て余すかも
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